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2020.01.16

南島の息使いが聞こえる写真集
『母ぬ島 mother Islands』

writer : 福田展也

朝の色/西表島

朝の色/西表島(撮影:仲程長治)

独特の視点で沖縄の光と影を撮り続けている写真家の仲程長治さんが、生まれ故郷の八重山にフォーカスした写真集が今年10月に出版された。タイトルは『母ぬ島 Mother Islands』。仲程さんは琉球と沖縄の時代と世代をつなぎ、写真・記憶を記録することをテーマに掲げるユニークな雑誌『モモト』のアートディレクターでもある。

「僕のクリエィティビティの源は、この島そのもの」という生まれ島へのオマージュでいっぱいの一冊だ。だからだろう、ページをめくるたびに自分が今あの島にいて、今まさに仲程さんが見たのと同じ光景を眺めているような、そんな気がしてくるのは。
台風

台風(撮影:仲程長治)

仲程さんらしいといえばそうなのだけれど、ページをいくらめくっても典型的な“沖縄らしさ”にはいっこうに出合えない。きらめくエメラルドグリーンの海にも、眩しく輝く白い砂浜にも、愛くるしいヤギの姿にも、艶やかな紅型にも、勇壮なエイサーや華麗な琉球舞踊にも。

けれども、一枚一枚の写真には、八重山の島々の記憶が、土地の肌触りや風の匂いとともに写し撮られているし、お馴染みの沖縄らしさ以上のものがそこにはある。

祈りに始まり祈りに終わる

仲程さん

散歩をしている時でも、道端で美しい光を見つけると、突然カメラを構えることもある(撮影:株式会社と)

写真集は一枚の御嶽の写真から始まる。石垣村の発祥神話が伝わる宮島御嶽。そこは仲程さんが最初に自然と戯れた場所だという。敷地内には樹齢何十年ものガジュマルやアコウが枝葉を広げ、休みの日には子ども達の歓声が満ちる、生命力に溢れる場所だ。

ふるさとは
わがこころのともしび
のぞみもえ
こころほのぼのと
とめるふるさと。

写真集の最後のページには石垣島が育んだ詩人、伊波南哲の詩とともに再び宮島御嶽の後ろ姿の写真が配置されている。祈りに始まり祈りに終わる。人と人、あるいは人と自然との関係の基礎にある畏敬の念と感謝の気持ち。それらが、この写真集を貫いている一つのテーマなのかもしれない。
海辺のモンパノ木を覗き込む仲程長治さん

海辺のモンパノ木を覗き込む仲程長治さん(撮影:株式会社と)

スジグロカバマダラ

発見したのは紅型の絵柄でもお馴染みの蝶、スジグロカバマダラ(撮影:株式会社と)

そのあたりを確認しようと、雑誌『モモト』のプロデューサーであり、『母ぬ島』の編集を担当した松島由布子さんと仲程さんに話を聞いてみた。

「生まれ故郷の写真集を作りませんかと話を持ちかけても、仲程さんは最初はまったく撮りたがらなかったんです」
松島さんから意外な言葉が返ってきた。

時代が過ぎても変わらないもの

仲程長治さん
石垣島は、高校卒業と同時に島を離れた仲程さんの目には、記憶とは違う姿に映るようになったという。
「海は埋め立てられ、道は舗装され、赤瓦の家は取り壊されて、昔の美しさがなくなってしまいました」
〈右〉斜幕のハイビスカス/石垣島 〈左〉宝石のようなサンダンカ

〈右〉斜幕のハイビスカス/石垣島 〈左〉宝石のようなサンダンカ/石垣島・川平
(撮影:仲程長治)

「そうだとしても、変わらないものがあるはずだ」という気持ちで、実家の周辺や足元の自然を一枚、また一枚とゆっくりと撮りためた写真が集まって、数年かかって完成したのが『母ぬ島』なのだ。
サガリバナ/西表島・浦内川支流

サガリバナ/西表島・浦内川支流(撮影:仲程長治)

「すべてのものは、生きている限り変わり続けているんだよね。朝目覚めて、働いて、夜には眠る。生まれて育って恋をして、そしていつか人は死ぬ。植物を見ていると、生命のサイクルを思い出すんだ」
「変わらないもの」を探して撮り続けているうちに仲程さんが見つけたのは、変わることなく巡り続ける生命の環だった。
雨降りの日の福木の葉っぱと実/石垣島・石垣市内

雨降りの日の福木の葉っぱと実/石垣島・石垣市内(撮影:仲程長治)

「自然がすべてのクリエイティブの原点なのに、人は自然を見なくなりました」と仲程さん。「ほら、この落ち葉の配列、きれいだと思わない?」
生まれ育った「字石垣四町内」で雨降りの日に撮った落ち葉の写真を指し示して、目を細める。
ネバル御嶽/石垣島・川平

ネバル御嶽/石垣島・川平(撮影:仲程長治)

「自然がもたらした配置、太陽が変えてゆく色、甘酸っぱい香り、静かな雨の音。肌で感じる湿度…すべてが五感、六感を刺激する」というその瞬間を仲程さんが切り取って、読者は写真を通じてその日の石垣を追体験する。そのとき、ページをめくる私たちの手は温もりのある木肌に触れ、写真集を眺める私たちの目は葉っぱからぽとりと落ちる雨垂れを見る。

被写体は日常の暮らしの中に

カバーのイメージカット

カバーのイメージカット(撮影:株式会社と)

少しでもリアルに石垣と八重山を感じてもらおうと、写真集のカバーにはビロードのようなモンパノキの葉の手触りに似せた特殊な加工が施してある。モンパノキは、水中眼鏡の材料としても知られる沖縄を代表する植物だ。写真は長治さんのお母さんが紡いだという苧麻の糸。八重山を代表する伝統工芸、八重山上布の原料だ。表は明暗を反転させた黒ベースで、裏はオリジナルの白ベースでと、ここでも、明暗のコントラストが心憎いほど表現されている。
〈右〉迷彩/石垣島・米原 〈左〉虫たちのアート

〈右〉迷彩/石垣島・米原 〈左〉虫たちのアート/竹富島(撮影:仲程長治)

『母ぬ島』に収められている写真のほとんどは絶景ポイントや名所・旧跡で撮られたものではない。島に暮らす人が、毎日の生活で行き来しているはずの普通の風景が被写体になっている。その土地その土地の魅力をかたどっている風土の輪郭は、心の目を開きさえすれば誰もが感じることができる。この写真集はそのことを私達に伝えようとしているのかもしれない。
〈右〉夜光貝の渦/八重山螺鈿工房 〈左〉雲の渦

〈右〉夜光貝の渦/八重山螺鈿工房 〈左〉雲の渦/竹富島・西桟橋(撮影:仲程長治)

「旅するようにページをめくる」といってしまうと、どこか軽く聞こえてしまうけれど、この写真集には、まだ見ぬ島を知らず知らず旅している気にさせる何ものかがある。
西表島の朝の虹を撮る仲程長治

西表島の朝の虹を撮る仲程長治(撮影:株式会社と)

西表島、中野海岸の夜明けを撮る仲程長治

西表島、中野海岸の夜明けを撮る仲程長治(撮影:株式会社と)

そして、石垣と八重山への旅を追体験させてくれるこの写真家には、これほどまでに土地と近い位置に身を置きながら、ローカルな意味での沖縄らしさを超えた普遍的でグローバルな価値を八重山の風土から取り出すことのできる不思議な力がある。

※こちらは、公開日が2016年12月26日の記事となります。更新日は、ページ上部にてご確認いただけます。

スマートポイント

  • 今までにない沖縄のお土産としてもおすすめです。英訳付きなので海外の方へのギフトにもどうぞ。県内の主要書店の他、通信販売でも購入できます。詳しくは東洋企画印刷(☎︎098-955-4444)までお問い合わせください。
  • 仲程長治さんの写真は雑誌『モモト』でもご覧いただけます。こちらも、気の利いた沖縄らしいお土産としておすすめです。
    朝日新聞 DIGITALの&galleryでは仲程長治さんのフォトエッセイ「琉球グラデーション」をご覧いただけます。
    http://www.asahi.com/and_w/gallery/ryukyu_list.html
  • 仲程さんと松島さんのオススメの場所は、野底マーペー、早朝の川平湾、月夜の白保海岸(以上石垣島)、サンガラーの滝(西表島)だそうです。ぜひ、訪ねてみてください。

ライターのおすすめ

石垣島の伝統的な家屋で生まれ育った仲程長治さんは、台風で島じゅうが暴風雨にさらされる時、木製の雨戸の節穴から暗い部屋の中に差し込む光が映し出す外の風景を見て写真の原理を「発見」したそうです。もし、古民家を訪ねる機会があって、そこに木製の雨戸や壁があったなら、節穴を探してみてください。そして、クリアファイルなど半透明で薄いものを節穴の前にかざしてみてください。そこに屋外の風景が反転して映し出されるはずです。そういった知恵が『母ぬ島』のあちこちに散りばめられています。八重山旅行のガイドブックとして、ご自身へのお土産として心からおすすめします。

福田展也

目下の趣味はサーフィン・沖縄伝統空手・養蜂。心で触れて身体で書けるようになることが10年後の目標。

INFORMATION最新情報は、各施設の公式ウェブサイト等でご確認ください。

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