沖縄戦の全体像がつかめる常設展示室
さて、沖縄県平和祈念資料館は二つのフロアから構成されています。
2階にあるのが5つの展示室からなる常設展示室。
ここでは、20数万人の命が失われ、受け継がれてきた文化と
豊かな自然も根こそぎになった沖縄戦の実態と沖縄の戦後を
歴史のつながりの中で知ることができます。
「沖縄戦への道 」と名付けられた第1展示室では、沖縄戦に至るまでの
沖縄の歴史と戦争がなぜ起こったのかについて展示されています。
かつては琉球という独立した国家であった沖縄が、どのようにして
日本の一部になり、戦争に巻き込まれていったかを知ることができます。
第2展示室のタイトルは「住民の見た沖縄戦『鉄の暴風』」です。
沖縄戦の様子を住民の視点から描こうと展示されている立体地図や
映像、実物資料。のどかな島の風景を焼け野原に変えた
艦砲射撃の凄まじさが伝わってきます。
千通りもの沖縄戦を追体験できる第4展示室
続く第3展示室は「住民の見た沖縄戦『地獄の戦場』」。
日本軍対アメリカ軍という軍隊同士の戦いだった首里陥落までの攻防戦。
それとは打って変わって、住民と軍隊が入り乱れる悲惨な地上戦となった
首里陥落以降の沖縄南部での激戦を蝋人形や実物資料で伝えています。
「住民の見た沖縄戦『証言』」と題された第4展示室では、
沖縄戦を生き延びた方々の生々しい体験を、
文字やビデオ映像を通して知ることができます。
「戦争で焼き尽くされたこの島には
当時の様子を伝える実物資料がほとんど残されていない」
この施設をつくるにあたって沖縄戦の凄まじさにあらためて
直面した関係者は、沖縄戦の生存者の記憶を、生きた言葉、
すなわち「証言」として展示の柱に位置づけることにしたそうです。
第5展示室は「太平洋の要石(かなめいし)」。戦闘が終わっても、
収容所に長期間収容されて故郷に帰してもらえなかった日々、
27年間にも及ぶアメリカ統治時代、そして現在の沖縄の状況まで、
戦後の沖縄を一望できる展示になっています。
現在から未来へ。これからの世界を考えてみる
1階は未来を展望するゾーンとして、「子ども・プロセス展示室」が
設置されています。平和を想像する基礎になるのは違いを認め合って、
同じところを見つけ合うことだという考えのもと、子ども達が、
自然に平和に触れられるように3つのコーナーが用意されています。
18カ国の子ども達に学校の様子や友だち、遊びのことなどを教えてもらう
「ぬちどぅ宝・せかいの子どもたち!」。なくならない戦争と紛争、
いじめの問題など、世界共通の問題を取り上げて、まず気づき、
次にどうしたら解決できるのかを考えてもらう「いま、せかいで何が…」。
遊びに関する展示物に触れながら共通性を発見し、
違いを認め合うきっかけづくりをサポートする「わらびなー(童庭)」。
未来をどうやって創造していけばいいのかを自然に考えさせてくれる
作りになっていて、大人の私達にも学ぶところがたくさんありそうです。
立場の違いで見える世界が違ってくる
「イマイチ興味がなかったけど、
沖縄の人の生の声を知れたのが良かった」(10代・女性)
「『戦争をしてはいけない』ということが言葉ではなく、
実感として感じられた」(10代・男性)
来館者のアンケートによればこのような
好意的な反応が大多数のようですが、
「いろいろな視点で沖縄戦を取り上げるべきだ」といった、
疑問を投げかける声もあるそうです。
このような意見に対して職員の新垣誠さんは、
戦場となった沖縄県の施設であることへの理解を求めた上で、
「ぜひとも、ご自分の視点で沖縄戦を掘り下げていただきたいです」と、
さまざまな視点で沖縄戦を考えることの意義を語ってくれました。
サイパンでの地上戦との関連で沖縄戦を見つめてみたり、
日本兵やアメリカ兵の視点で沖縄戦を考えたり、
立場によって沖縄戦の見え方が異なってくることに
着目することで大切なことが浮き彫りになるかもしれません。
実際のところ、沖縄県平和祈念資料館は2013年には特別企画展として
「ハワイ日系人が見た戦争と沖縄」を開催し、2014年には
戦争当時多くの移民が暮らしていた南洋群島での戦いにスポットを当てた
「南洋の群星が見た理想郷と戦」を開催しています。今後も
さまざまな角度から当時を見つめ直す企画展が開催されるでしょう。
展示を前にして、何を思い、何を受け取るかは人それぞれ。
どのように感じるとしても、
この場所で受取ったものがこれから先のみなさんの人生にとって、
大事なきっかけになることを願ってやみません。
※こちらは、2015年9月17日公開の記事となります。更新日はページ上部にてご確認いただけます。
※記事中の写真、価格は取材当時のものとなります。