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特集特集

2015.03.20

リゾートではない
沖縄の暮らしを感じて

writer : 川村真美

穏やかに水分を含んだ空気を肌に感じている。
それは湿気というよりも、まるで潤いの膜に包まれるような心地よい感覚。
そうか、海に囲まれた土地は空気の感触すらも違うものなのだな
と一人合点し、地図をめくって「東シナ海」の文字を確認したときは
驚いたものだった。沖縄の車道は右側通行だから気をつけてね
との悪友の助言が頭を巡る。
そんなバカな…と思いながらフェリーからオートバイを降ろし、
しかし、いつもよりスピードを緩めて公道へと走り出る。
国道にはヤシの木、路地へ入るとハイビスカスやブーゲンビリア。
しかし、南国の花々の横では雑草然としたススキが育ち、
もはや季節感などはない。道の角に置かれた看板には、
色褪せた字で「ゲストハウス 1泊1000円」とある。
日本だけど、日本じゃないみたいだ。
そんな所感を抱いた7年前の1月、一人で沖縄へやって来たときのこと。

あれから、看板の矢印が示すほうへと路地を進んで
「ゲストハウス」と呼ばれる相部屋の安宿に転がり込み、
住み込みのスタッフをし、外でもアルバイトを始め、就職をし、
退職を経て、そういったことをいくらか繰り返した後、
わたしは30歳を迎えようかという年になった。
結局、ずっと沖縄にいる。
相も変わらず、ハイビスカスとススキを横目に暮らしている。
傘も持たずに出歩いては軒下でスコールを見送って、
食堂では「Cランチ」と呼ばれるボリュームたっぷりの定食を頼み、
たまには堤防に座って海に沈むサンセットを眺めたりなんてしながら。
長い夏の暑さにはいつまで経っても慣れることができず、
ぜんざいを食べて体を冷やす。沖縄でぜんざいとは、
甘く煮た小豆と白玉をかき氷にトッピングした冷やし物のことをいい、
本州のそれとは異なるため、最初は違和感があった。
しかし、それも暮らしていくうち、沖縄の常識として感覚に馴染んでいく。
つい先日、冬の本州で「ぜんざい」の文字を見て、
寒くはないのかと逆に驚くことができる程度には。

それと同時に、7年暮らしても、まだまだわからないことも多いのだった。
勤め先の社長が酔っ払って話す沖縄方言だって、
おそらく半分も理解できていない。方言は各地域によっても
言い回しが異なるため、なかなかどうして覚えることが難しい。
「8年目にもなって、まだわからんか」と、
特徴的なイントネーションでからかわれる。
沖縄の話し言葉は、抑揚があって耳心地がよい。
そして気がつけば、わたしの口から発せられる言葉にも、
少しだけその抑揚が移っている。

未だ移住をしたという感覚はなく、居続けることについても、
これといった明確な理由はなかったように思う。
7年前に滞在していたゲストハウスでは、
わたしのような沖縄に住みついてしまった人を「沈没組」と呼んだ。
組というくらいなのだから、
そういった人たちは常に何人かいたことになる。
わたしたちは、ただ、離れがたかった。
それだけなのだ。

わたしが言えたことではないのは百も承知で、それでも伝えたい。
沖縄の本当の魅力は、
おそらく、こうしたなんでもない日々の暮らしの中にあるのではないかと。
そして、その一片でも知ることができるのは、
もしかして、とても幸せなことなのではないかと。

川村真美

岩手県出身、2008年より沖縄在住。フェリーでふらりと沖縄にやって来て、なにやら離れがたくて、そのまま移住。

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