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2017.04.27

雑誌『モモト』が本気で伝える
沖縄のパワーと本当の美しさ

writer : 福田展也

モモト01号
「本が売れなくなった」と、出版や書店の世界でささやかれるようになってずいぶんたつが、2009年の創刊以来、国内外に暮らす沖縄を愛する人達に読まれ続けている本が、沖縄にはある。県外や世界に暮らすすべての沖縄ファンにおすすめの『モモト』だ。琉球王朝の歴代の王女の中で、最も歴史に翻弄された百度踏揚(ももとふみあがり)に着想を得たタイトルを冠し、沖縄そのものを掘り下げ、時には広げてみせる、丁寧でユニークな編集姿勢が各方面で評価されている。
「百年たっても読む価値のある雑誌を作りたい」という思いを持ち続けている副編集長の、いのうえちずさん。「彼女のその言葉を今でも忘れられない」という編集長の大城佐和子さん。そして、「この記事を読んでくれる観光客に沖縄から持ち帰ってほしいものはありますか?」という質問に、「何も持ち帰らなくていいと思います。沖縄の時間や自然や人に触れることで、その人の中に眠っていた何かが開けばいいなぁと。そして、自分の故郷っていいな、とか、今取り組んでいる仕事や、いつも一緒にいる家族や仲間の大切さとか、忘れていた何かを思い出してもらえるのが一番の理想です」と答えてくださったプロデューサーの松島由布子さん。出身地が違う3人の女性と、シマで生まれ育った写真家やデザイナー。この雑誌を制作しているのは、沖縄をこよなく愛しているのはもちろん、個性的でエネルギッシュで才能のある人ばかりだ。

自分の足で歩き、自分の肌で感じたものを大切に

モモト05号
「自らの足で見つけた琉球・沖縄の魅力を発信することで、このシマの時代と世代をつなぎ、写真・記憶を記録していきたい」という想いとともに読まれているこの雑誌はこの4月に30号を刊行した。年に4回、季節ごとに発行されるモモトは、毎号異なる視点から沖縄の魅力を切り出している。お土産として、二度目、三度目の沖縄旅行のガイドとして、おすすめしたいのは、その性格上薄く広くなりがちな一般的な雑誌とは、ひと味もふた味も違う読み応えを、多くの人が感じているからだ。

創刊から間もない5号のテーマは、『みんなシマの子どもだった』。異なる世代の文化人へのインタビューを通して読者に提示されるのは、それぞれの子ども時代をフィルターにして濾し取られた沖縄の暮らしだ。

誌面に登場するゲストの一人は、日本映画史上初めての中学生映画監督としてデビューした仲村颯悟さん。「山羊を食べるのは残酷だと思う主人公と他の肉と何が違うか問いかけるいとこ。両方とも自分と重なる」という仲村さん初めての長編『やぎの冒険』に代表される映画監督してのストーリーからは、「ゼロから何かを創る」という、沖縄のクリエイティビティに触れることができる。

誌面を通して伝わってくるのは「島の本当の美しさやパワー」

モモト29号
『外国人が見た沖縄』がテーマの29号には、陶芸、空手、映画、琉球史研究、プロレスと、異なる分野で活躍している外国人が顔を並べる。沖縄が好きな理由、“世界”の目に映し出された沖縄などを切り口に、沖縄の魅力を重層的に浮かびあがらせている。今までメディアが伝えてきた青い海、優しい「おじぃ、おばぁ」に象徴されるステレオタイプな像とは明らかに異なる沖縄が、そこにはある。ガイドブックや観光サイトからは、なかなか伝わってこない沖縄が、モモトの編集者やフォトグラファー、デザイナーによってあらためて言語化され、視覚化されているのだ。

「沖縄で生まれ育った人、沖縄で暮らしている人など、沖縄を自分の“ふるさと”だと思っている人達に、島の本当の美しさやパワーを伝えたい、消えてしまう前に記録しておきたいと思っています」
「モモト」は誰に何を伝えようとしているのかを尋ねてみたら、松島由布子さんからそんな答えが返ってきた。

読者像の「沖縄を自分の“ふるさと”だと思っている人」には、沖縄を愛してやまない読者のみなさんも、もちろん入っているだろう。非日常に身を置く上でいい機会である旅行の目的地として、あるいは、自分の人生を築く新たな住処として、沖縄に関心を寄せているみなさんも沖縄を“ふるさと”だと思っているはずだから。
モモト別冊うるま市
「大切にしていることのひとつはシマの視点で捉えること。沖縄の歴史を考える時にも、首里から見るのと、石垣島のような離島や、本島北部の今帰仁や勝連城でおなじみのうるま市から見るのとでは、かなり違った歴史が現れてくるわけです」
いのうえちずさんは、首里を中心に語られがちな琉球史を、他の地域からの視点で眺めることで、同じ出来事でも今までとは違う見え方で現れてくると考えている。

「まずは沖縄を楽しんでもらいたいですが、沖縄は奥が深いのでいろいろな視点から見てほしいんです。深く知ることで同じものが違って見えてくる。知れば知るほど自分が知らないとうことがよくわかる。それが沖縄なのかもしれません。例えば青い海を見て感動した時、悲しい歴史の上に今があることに思いを馳せてほしい」
いのうえさんからは、そんなアドバイスもいただいた。

見えてくる「ひと味違う」新しい沖縄の魅力

モモト03号
3号では『わったーリゾート 島ゆくい』をテーマに、地場企業の社長をフィーチャー。おすすめのスポットや時間の過ごし方を紹介している。そこから見えてくるのは、観光客の目から見たリゾート地としての沖縄とはひと味違う、新しい沖縄の魅力だ。

「モモトを手にしてどんどん歩いてほしいですね。ただし、地元の人にとって大切な場所は荒らしてほしくない。地域では暗黙の了解になっているローカルルールを破ることなく島の文化とか受け継いできた人のことをリスペクトして訪ねてもらえたらうれしいです」
編集長の大城佐和子さんにとっての沖縄の魅力は、ものでも喜びでも悲しみでもシェアし合ったり、自分が大変な時でも相手を助けようという他者を思う気持ちにあるようだ。
「『海がきれい!』、『あったかくてのんびりしてる!』がきっかけになって、沖縄の人にも目を向けてほしい」
それが観光に来る皆さんへのお願いだという。

後半部分では、統計と資料を活用した客観的視点から、沖縄観光の歴史的な変化にスポットを当ている。それも、学術的な論文のような読むのをためらわせる書き方ではなく、スラスラと読みすすめるうちに、沖縄が時間軸の広がりを通じて、より身近に思えてくるあたりは、さすがモモトといえるだろう。

「3号から年表やデータを盛り込んでいるのですが、それは、沖縄に生まれ育った人でも、断片的にしか知られていないこと、継承されていないことを、全体から見えるようにするにはどうしたらいいんだろう、ひと連なりの流れの中で理解できるにはどうすればいいんだろう、と考えた結果なんです」

人を通して語られる歴史、自然、そして文化

モモト11号
『沖縄で学ぶ』をテーマにした11号には伝統空手家、沖縄大工、陶芸家、海人(うみんちゅ)が登場する。
「天気予報は波の声を聞けばよくわかる」。
『天に学ぶ暮らし』と題されたページでは、西表島の石垣金星さんのシンプルで重い言葉が紹介されている。そういう言葉は、自然と向き合うことが当たり前のこととしてある離島に、暮らしているからこそ生まれてくるのだろう。

《西表島を言い表す時によく使われる『手つかずの自然の島』という言葉は違うと、金星さんはいう。手つかずではなく、今残されている自然は、この島の先人達が守り抜いてきたものであると》
誌面に綴られているように、視点をスライドさせてみせるのもモモトの特徴だ。その後で、自然との関係の中にこそ存在するシマの学びを丁寧に伝えている。例えば、沖縄の伝統的な染織では染料として欠かせない琉球藍、南方から伝来したという黒米、思いや教えが隅々にまで満ち溢れている民謡などを手掛かりに。
モモト10号
モモトはまた、沖縄の本土“復帰”や平和をテーマにすることもある。“復帰”40年の節目にあたった2012年には、「今こそ、『復帰』を語ろう」をテーマに、誌面に“あの日”を知る人と、知らない人を登場させ、当時と今にブリッジをかけてみせる。

農連市場近くで50年以上商いをしている女性は、「復帰前は何を置いても売れました。(中略)復帰後、特にオイルショック後から簡単にはいかなくなったね」と当時を思い返している。旧琉球政府総務局で渉外広報部に勤務していた男性は、「前夜から豪雨でね。この雨を『これは27年間の異民族支配のアカを洗い落とす洗礼の雨だ』という人もおれば、『県民要求を無視し、新たな犠牲を強いる返還。天も泣いている、涙の雨だ』と評する人もいた。県民の悲願だった祖国復帰の日ですが、心情としては複雑なものがありました」と振り返る。

別のページでは、八重山民謡界の大御所、大工哲弘さんへのインタビューが、さらに他のページでは、「お笑い米軍基地」の小波津正光さんと「笑築過激団」の玉城満さんの対談が紹介されているほか、一般的な雑誌であれば躊躇してしまうであろう深みにも、独特のバランス感覚で降りていく。また、当時の面影を色濃く残すコザ(沖縄市)の街を、まち歩きの視点を取り入れて紹介することで、五感で触れてみようと読者に呼びかける。

沖縄の本当の美しさやパワーは目に見えない

モモト30号
インタビューの最後に「モモトを使って沖縄を深く味わう方法」を教えてほしいという質問を投げ掛けてみた。

「沖縄の本当の美しさやパワーというのは、ほとんど””目には見えないもの””です。ガイドブック片手に観光スポットやお店を回ったり、モノを買ったり食べたりすることではなかなか出会えない…というか、気づかないかも知れません。沖縄の時間と空気にからだをゆだねて、(できるだけ先入観や事前情報を持たずに)自らの五感で、沖縄の「自然」や「人」を感じてみてほしいと思います」
松島由布子さんが語るように、心の目を凝らしさえすれば、魅力的だと感じるもののほとんどすべての背後に、目に見えないものが見えてくることがある。それは沖縄に暮らす人の思いだったり、生き方だったり、それらの基盤になっている沖縄の風土なのかもしれない。

生命を育む母の優しさと
父のような厳しさを併せ持つ
大らかな海のように

すべてを焼き尽くされても
やがて緑に覆われる
たくましい大地のように

大風(うふかじ)になぎ倒されても
太陽の光を浴びて起き上がる
しなやかなウージのように

激動の時代を超えて21世紀を迎えた今
ますます輝きを増す
このシマの底力とは何なのか

悠久の時を経て足元に広がる「地」
脈々と受け継がれている「血」
世代から世代へと伝えられてきた「智」を、
様々な切り口から見つめてみました

創刊号の巻頭で謳いあげられたこの詩の行間に散りばめられているいろいろな思いは、8年目を迎えた今もモモトのページをめくるたびに、時には力強く、時には仄かに、言葉と写真とデザインを媒介にして漂ってくる。

「沖縄を愛してやまない皆さんの目に、沖縄はどう映っていますか?沖縄の地をあなた自身の足で歩き、沖縄の血を五感で感じ、沖縄の智と直に触れ合うことで、あなたの心に浮かぶものは何ですか?」
取材を終えて記事を書き終えようとしている今、思い浮かんだこの質問に、ご縁があればぜひご返事をいただければ幸いだ。

スマートポイント

  • 今までにない沖縄のお土産としてもおすすめです。沖縄の空気感をよく伝えている写真がたくさんなので、海外の方へのギフトにもおすすめです。空港を含む県内の主要書店のほか、コンビニエンスストア、通信販売でも購入できます。詳しくは東洋企画印刷(☎︎098-955-4444)までお問い合わせください。
  • 朝日新聞 DIGITALの&galleryでは『モモト』のアートディレクター、仲程長治さんのフォトエッセイ「琉球グラデーション」をご覧いただけます。 http://www.asahi.com/and_w/gallery/ryukyu_list.html
  • 沖縄が大好きな人へのギフトには、仲程長治さんの写真集『母ぬ島』がおすすめです。 https://www.smartmagazine.jp/okinawa/okinawa/article/gift/30230/

ライターのおすすめ

J-TRIP SMART MAGAZINE OKINAWAの編集長、権聖美は、『モモト』の初代編集長です。ということで、『今回のライターのおすすめ』は、権編集長にお願いしました。以下、権からの“おすすめ”です。

「企画・取材力、写真力はもとより、モモトの魅力を語る上で忘れてはならないのがデザイン力です。 企画をより読者に伝えるため、デザイナー達がさまざまなモチーフで毎号モモトを演出しています。 ぜひ一度、モモトを手にとって、デザインに隠されたデザイナーの意図や遊びに触れてみてください。私がおすすめするモモトのもうひとつの楽しみ方です」

福田展也

目下の趣味はサーフィン・沖縄伝統空手・養蜂。心で触れて身体で書けるようになることが10年後の目標。

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