香りから味わう、自信作の「地粉香り鰹そば」
「ぜひ、こちらを食べていただきたいんです」
金城さんが自信をもって運んできたのが、「地粉香り鰹そば」(680円)。名前からして何やら個性的ではありませんか。さっそく器を両手で抱えて、香りからいただいてみました。
ファーストインプレッションは「夕凪の東シナ海」。風のない穏やかな日に柔らかな夕日を受けてゆらめいている読谷の海のように、鰹だしの柔らなかな風味が広がってきました!味付けはやや甘め。塩の角が感じられないマイルドタイプ。まるで台風や北風の荒波を何百年も受けて、滑らかに磨かれた海岸沿いのリーフのようです。
続いて店主自慢の自家製そばズズッとすすります。うん、うん、これはなかなかどうして!はっきりした形をともなった全粒粉の小麦の香りが、鼻腔から脳細胞へと登っていくのが感じられます。
沖縄そばを通じて沖縄を味わってみる
「小麦の味がどういうものか感じてほしかったんです」
なるほど、沖縄そばを通じて感じてほしかったのは、自分達が暮らしている地域の味、土地の味だったのでしょう。沖縄で栽培された小麦で作られたそばを味わいながら、自然の豊かさや素材の底力に改めて気づかされます。
自分の食生活を見渡してみても、確かに素材の存在感そのものに向かい合うことは極めて稀なこと。おいしいくて丁寧に作られた料理でも、その多くがハーブやチーズや調味料の力に負けて、具材の存在感は埋もれてしまっていることが多いです。
そんな中、金城さんが提供する沖縄そばの新しい形は、文字通り「沖縄を味わう」一つのきっかけになるでしょう。
読谷ならではのユニークな味わい
続いて登場したのは「そら豆味噌野菜そば」(730円)。そら豆からできた独特な味噌を贅沢に使用。黒ごまで仕立てたスープが実に個性的です。
戦前から沖縄県内で盛んに作られてきたそら豆味噌は、戦後ほとんど作られなくなったレアな味噌。農業による地域おこしに村ぐるみで取り組んでいる読谷村だからこそ継承されてきたこの味噌の味わいはソウルフードの域に達しているようです。
食後のデザートはクリームブリュレ。厚みがあってテリ感のあるカラメルをスプーンで割ってまずはクリームを味わいます。カスタードのソフトでスムーズな味わいとカラメルの苦甘さのコントラスト。沖縄の色彩や光陰のように鮮やかです。何度食べても飽きのこない、濃厚なのにしつこさのない手作りの味をお楽しみください。
沖縄らしいフリースタイルをお楽しみあれ
「沖縄そばの看板を掲げてますから、沖縄そばらしくないものを出すことに葛藤はあるんです。でも、いろいろな沖縄そばの形があってもいいんじゃないかと思うんです」
独自の道を進み続ける金城さん。沖縄が大きな力に翻弄されることがなく、沖縄らしくあり続けられるように、土地の味にこだわり続ける金月そばはいつ来ても、満足して帰れる沖縄そばのお店です。